天真爛漫さは心を救う?【空中ブランコ】奥田英朗
暑い日が続いていたと思ったら、台風などの影響で急に天候が荒れてますね。こんにちは。猫雪晴です。
相変わらずままならないこのご時世ですが、読書が心の支えになってくれると信じています。本日紹介するのは、奥田英朗さんの人気シリーズ第2弾「空中ブランコ」です。
価格:682円 |
こんな人に読んで欲しい
・伊良部先生の魅力に取り憑かれている
・前向きな気持ちになりたい
・直木賞受賞作を読みたい
あらすじ
注射を打つのを見るのが趣味という、はちゃめちゃな精神科医・伊良部の元には、心を病んだ患者達が今日もやってくる。
飛べなくなってしまったサーカスの空中ブランコ乗り、先端恐怖症のヤクザ、カツラをとってしまいたくなる衝動が抑えられない医者、ボールが投げられなくなったプロ野球選手などなど…
一見治療とは程遠い伊良部先生とのやり取りを通して、不思議と患者達は立ち直っていく。伊良部は天才なのか、ただの天然なのか?
感想など
精神科医伊良部シリーズの第2弾です。今作「空中ブランコ」は直木賞を受賞しています。前作の感想は以下をご覧ください。
neko-yuki-haru7.hatenablog.com
かなり面白おかしく書いているものの、自分もちょっとしたきっかけで、こんな風に精神を病んでしまうかも知れないなと感じさせられました。笑えるけれど、笑えない感じです。でも最終的に患者は救われるので、笑えます(笑)
人間は少しのきっかけで心が壊れてしまう。いや、きっと人間誰しもどこかに精神的な異常さを抱えて生きているのかもしれません。その線引きは実に曖昧で、正常さと異常さの線引きはほとんど無いに等しいのかもしれません。
今作を読むと人間くさい登場人物たちに愛着が湧いてきます。異常さは決しておかしい事ではないし、それも含めて人間らしさと言えるのではないかと感じられます。
読み進めるうちに、自分をありのまま受け入れて良いんだ、と言うメッセージが伝わって来ました。悔しさだったり、嫉妬だったり、不安だったり。誰もが持ってる「負の感情」。負の感情は、自分の奥底に押し込めなくてはならないと無意識に思ってしまっています。
一見能天気で破天荒な伊良部先生は、そんな負の感情に身をまかせたって良いじゃないかと伝えてくれている気がします。それだけで私たちはきっと救われます。
登場人物達の症状の描写がリアルなので、奥田さんは丹念な取材をされているのだろうなと思いました。リアルとフィクションの塩梅が絶妙な作品です。
印象に残った言葉など
「破壊衝動は、要するに自分を壊したいってことだから、代償行為を見つければ、案外収まるんじゃないの?」
「そういうのを一年間続ける。すると周囲もあきらめる。性格っていうのは既得権だからね。あいつならしょうがないかって思われれば勝ちなわけ」
「体裁を取り繕うって人生を生きにくくしない?開けっ広げの人間の方が絶対にらくなんじゃない?」
人間の宝物は言葉だ。一瞬にして人を立ち直らせてくれるのが、言葉だ。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
また素敵な本に出会えますように。