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真の更生を問う【天使のナイフ】薬丸岳

こんばんは。少し久しぶりの更新となります。まだまだ暑い日が続いていますね。本日紹介するのは、第51回江戸川乱歩賞を受賞した薬丸岳さんの「天使のナイフ」です。

 

天使のナイフ 新装版 (講談社文庫) [ 薬丸 岳 ]

価格:924円
(2021/8/26 23:29時点)
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こんな人に読んで欲しい

 

江戸川乱歩賞受賞作品を読みたい

・少年犯罪について考えたい

・犯罪から更生するとはどういうことか考えを深めたい

 

 

あらすじ

 

幼い娘を残して、妻を殺されてしまった主人公・桧山。しかし犯人は13歳の少年たちだった為、罪には問われず、そして加害者の情報も伏せられたままだった。桧山は仕事と子育てに打ち込み、事件を忘れようと必死に生きるほかなかった。

しかし4年後のある日、加害者少年の1人が殺されてしまい、事件の歯車が再び動き始める。何者かの思惑によって、桧山に疑いがかかってしまう。真実を求めて奔走する桧山と、加害少年達の気持ち、そして周りの人間達の心情を丁寧に描いた作品。

 

感想など

 

第51回江戸川乱歩賞を受賞した作品です。読書好きの方が多くおすすめしていたので、気になっていた本です。

話の舞台が、先日偶然訪れていた埼玉の大宮公園氷川神社近辺であったので、イメージし易かったです。訪れた直後に読み始めたので、びっくりしてしまいました。偶然ってあるんですね。

海外や全く知らない土地の物語も面白いですが、身近な場所を舞台にした物語は親近感が湧いて、一気に心の距離が縮まる気がします。


本作品のテーマは『少年犯罪者は更生できるのか』

そして『被害者遺族たちの苦悩』です。

 

何らかの罪を犯した人間は、何をもって更生したと言えるのでしょうか?そして上辺だけではない、“本当の更生”とはいかなるものなのでしょうか?

薬丸さんは、少年たちに妻を殺されてしまった夫の目を通して、この重たくも難しいテーマに挑んでいます。何より薬丸さんのすごいところは、簡単には答えの出ないテーマから逃げずにとことん向き合っている点です。

一方的な意見の押し付けをする事なく、そして簡単には結論を出しません。様々な立場の登場人物を通じて、多面的にこのテーマにアプローチしている点が良いと思います。

 

少年犯罪の厳罰化を求める声。少年たちを守り、将来に向けて更生の道を作る法律。以上の大きな2つの意見だけでなく、その他多くの考え方が登場します。自分だったらどう感じるだろうか?登場人物たちそれぞれの立場に立ってみて、考えるのも良いかもしれません。


立場や見方、置かれた環境が違えば意見も違ってきます。

自らの犯した罪から決して逃げず、謝罪の気持ちを持ち続ける。簡単には更生したとは言えない。悩み苦しみながら生きる事が真の更生だ…そんなメッセージを受け取りました。


上記のテーマを考えるきっかけになるだけでなく、二転三転する多くの謎が隠されている小説でもあります。エンタメ小説としても読み応え十分な一冊と言える作品です。

 

印象に残った言葉など

 

失ったものは何があろうと戻ってくることはないが、被害者側の苦しみを多少なりとも癒せるのは、もしかしたら加害者本人だけなのかもしれない。

これから自分がどう生きていくかという前に、自分が犯してしまった過ちに、真正面から向き合うということが、真の更生なのではないだろうか。そして、そう導いていくことが本当の矯正教育なのではないかと。

 

人生につけてしまった黒い染みは、自分では決して拭えないとな。少年だろうと、未熟だろうと、自分で勝手に拭っちゃいけないんだ。それを拭ってくれるのは、自分が傷つけてしまった被害者やその家族だけなんだ。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

また素敵な本と出逢えますように。