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日常系ビターミステリー【本と鍵の季節】米澤穂信

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こんばんは。台風一過で良い天気となりました。9月も後半に入り、あっという間に季節が流れていきますね。

本日紹介するのは、米澤穂信さんの「本と鍵の季節」です。日常ミステリーの名手がおくる、新たなコンビによるミステリー作品です。

 

本と鍵の季節 [ 米澤 穂信 ]

価格:1,540円
(2021/9/20 21:29時点)
感想(3件)

 

こんな人に読んで欲しい

 

・日常系ミステリーが好きだ

・米澤さんの古典部シリーズにハマった

・図書委員をやったことがある(やっている)

 

あらすじ

 

高校二年生の僕(堀川)と松倉の2人は共に図書委員として活動していた。それも利用者がほとんど居ない、図書館らしからぬ図書館の。利用者は居ないものの、淡々と仕事をこなす2人。

図書委員としての繋がり以外は特に関係性の薄い2人が、ひょんなことから様々な謎に挑むことになる。開かずの金庫を開けるために奮闘したり、自殺した生徒が最後に読んでいた本を探し出したり…絶妙な距離感の2人が織りなす、日常系ミステリー。

 

感想など

 

今年6月に文庫化もされた作品です。全体的に緑色の装丁が目を惹きます。

本と図書館がテーマで、そのうえミステリーと言えば、本好きにはかならず刺さるであろう題材ですね。

そう言えば、私も小学生の頃は図書委員だったことを思い出します。小学生だったので、仕事らしい仕事はそれほどしていなかったと思いますが…

図書委員の2人が主人公ですが、事件自体は図書館内では起こりません。依頼されたりしながら、学校外に繰り出します。しかし、図書委員としてのスキルや知識を使いながら真実に迫っていきます。その展開が実に小気味良いのです。

 

公共の図書館はたまに訪れますが、学校の図書館は利用しなくなって久しいので、何だか逆に新鮮さを感じました。閑散としている図書館で仕事をこなしながら会話をする中で、新たな事件が舞い込んできます。



ところで米澤さんの小説と言えば、古典部シリーズ(「氷菓」から始まる、アニメ化などもされた人気シリーズ)や小市民シリーズ(「春期限定いちごタルト事件」など、目立たず人に迷惑を掛けないことをモットーに生きる主人公の物語)の様に、「コンビ」が日常に潜む謎に挑む物語のイメージが強いですね。



上記の2つのシリーズでは男女のコンビですが、今作は男2人によるコンビです。登場人物の会話が魅力の米澤作品ですが、2人の距離感が近くもなく遠くもなくといった具合で、ちょうど良い気がしました。お互いの領域に踏み込みすぎないと言う点がなおさら。

事件に対する2人の立ち位置に関しても、2人ともホームズの様でもあり、2人ともワトソンの様でもありと言った感じです。熱くなりすぎず、ただ淡々と謎に向き合っていく内容がじわりじわりと染み込んでいきます。

決して大きな事件が起こるわけでは無いですが、意外な事実が明らかになって、アッと思わされます。そしてほろ苦い要素が強い印象です。ピリ辛ではなく、あくまでも“ほろ苦い”のがポイント。



最近江戸川乱歩賞作品を読んでいて、重めな内容が続いていたので、良い息抜きになりました。良いですね、日常ミステリー。

 

 

印象に残った言葉など

 

「情報ってのは『差』だ。真っ白な紙にはなんの情報もない。完全に規則正しく黒い点を打っても、やっぱり情報にならない。ある場所には多く、ある場所には少なく点を打ってはじめて、それは情報になる」

「どんな立派なお題目でも、いつか守れなくなるんだ。だったら、守れるうちは守りたいじゃないですか。」

人には心というものがあるんだ。ほかに方法がなければ仕方がないが、必要もないのに人前で恥をかかせるような言い方をしては、可哀想だろう。

 

 

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

また素敵な本に出逢えますように。