猫雪晴の本箱

つれづれなるままに本の感想を紹介

誰もが心に庭を持っている【裏庭】梨木香歩

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こんばんは。かなり久しぶりの投稿となってしまいました。10月になってからは初めてですね。マイペースに読書はしていますが、なかなか記事にできずにいました。

本日紹介するのは、梨木香歩さんのファンタジー小説「裏庭」です。

 

 

 

 

こんな人に読んで欲しい

 

・人間関係が上手くいっていないと感じている

梨木香歩さんの「西の魔女が死んだ」が好きだ

ファンタジー小説が読みたい

 

あらすじ

 

その昔英国人一家が住んでいた洋館は、長い間誰も住んでいなかった為、荒れ放題になっていた。その代わり自然にあふれていたので、近所の子供たちの恰好の遊び場になっていた。

主人公の少女・照美も小さい頃はその屋敷で遊んでいたが、成長するにつれて次第に足が遠のいていた。

照美は共働きの両親から何となく疎外感を感じながら暮らしている。友人のおじいちゃんと話す時間が、唯一心休まる時間だった。おじいちゃんからは様々な物語や、屋敷の秘密の裏庭についての話を聞いていた。ある日そのおじいちゃんが倒れ、照美は導かれるように屋敷に向かう。

そしてそれが少女の壮大な冒険の始まりとなった。

 

感想など

 

久しぶりに再読しました。この「裏庭」と言う作品を中学生の時に読んだのですが、私が読書が好きになるきっかけになった本です。幼少期にも好きだった本はたくさんありますが、この作品が所謂児童書ではなくて、初めてちゃんと読み切った大人の小説だったから印象に残っているのかもしれません。児童文学ファンタジー大賞を受賞しているので、児童向けだとは思いますが、それでも当時の私にとって文庫本で400ページの作品を読み切ったことは大きな達成感に繋がりました。

梨木さんと言えば「西の魔女が死んだ」が有名ですが、上記の理由もあって個人的にはこちらの方が思い入れが強いです。



物語は異世界である裏庭での冒険と、現実世界での話を行き来しながら進行していきます。
1人の少女の成長を描いた作品ですが、少女だけでなく、母親や父親、屋敷の持ち主など、周りの登場人物みんなの心の成長を描いた作品だと思います。

照美の「お母さん」ではなくて、「さっちゃん」であったり、「お父さん」ではなくて「徹夫」であったりして、きちんとそれぞれの物語であると言う表現がなされているのが印象的です。誰かにとっての親であったり子であったりではなくて、自分自身が主人公の成長物語と言えます。


成長と言うよりは、むしろ“癒し”の物語かもしれません。


家族を亡くしてしまった悲しみから。戦争で親しき友と離れなくてはならなかった悲しみから。ギクシャクしてしまった家族関係から。昔、一歩踏み出す勇気が持てなかった後悔からーー心の傷を癒していく。

裏庭の世界の3つの藩(国のようなもの)で出会う人物からはそれぞれ、「傷を恐れるな」「傷に支配されるな」「傷は育てていかねばならん」と言われている事から、“傷”が大切なテーマの一つになっていると思います。

色々な“傷”から逃げずに、受け入れて、傷も含めて自分であると理解して、そして癒されていく過程が描かれていきます。


また多くの対比表現が為されているのも印象的です。この点は文庫版の解説で河合隼雄さんも触れています。日本と西洋、生と死、昔と今、現実世界と異世界など、多くの対比が登場し、物語に深みを持たせています。

中学生当時は、面白いファンタジーだと言う印象でしたが、大人になった今読み返すと、たくさんの要素が盛り込まれている壮大な話であるなと感じました。
正直、感想に書ききれない内容ですが、どの登場人物にも感情移入できますし、冒険ファンタジーとしても、また心の成長物語としても読むことができる、懐の広い作品です。

西の魔女が死んだ」を読んで感動された方に是非読んで欲しいです。

 

印象に残った言葉など

 

パパとママは真面目に生きてるけど、誇りをもって生きていない。楽しんでもいない。光に向かうまっすぐさがない。それは子どもにとってはどうにもならないやりきれなさだ。

そういう『常識的』な言葉を使うとき、さっちゃんは、何か虚しい気がすることもある。言葉が上滑りしていく感じだ。でも、場合によっては、何か守られている感じがすることもある。

「うわべだけの服は、存外便利で役に立つこともあるんだ。うわべがしっかりしていれば、その中に隠れて休むこともできる。ーー本人に分別があればの話だが」

「真の癒しは鋭い痛みを伴うものだ。さほどに簡便に心地よいはずがない。傷は生きておる。(中略)真の癒しなぞ望んでおらぬ。ただ同じ傷の匂いをかぎわけて、集いあい、その温床を増殖させて、自分に心地よい環境を整えていくのだ」

「薬付けて、表面だけはきれいに見えても、中のダメージにはかえって悪いわ。傷をもってるってことは、飛躍のチャンスなの。だから、充分傷ついている時間をとったらいいわ。薬や鎧で無理にごまかそうなんてしないほうがいい」

「真実が、確実な一つのものでないということは、真実の価値を少しも損ないはしない。もし、真実が一つしかないとしたら、この世界が、こんなに変容することもないだろう。」

 

 

最後まで読んで頂きありがとうございました。

また素敵な本に出逢えますように。