猫雪晴の本箱

つれづれなるままに本の感想を紹介

感情が無ければ生きられないのか【脳男】首藤瓜於

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こんばんは。猫雪晴です。急な雨が続いたり、寒い日が続いたりしていてなかなか安定しませんが、今日は何だかいい天気でした。貴重な晴れ間を活かして、久しぶりに布団を干しました。住環境を整えることも、読書には大切なことですね。

 

さて本日紹介するのは、第46回の江戸川乱歩賞を受賞した首藤瓜於さんの「脳男」です。タイトルからして、引き込まれてしまうような内容ですね。

 

こんな人に読んで欲しい

 

江戸川乱歩賞受賞作品を読みたい

・感情や心について興味がある

・天才と犯罪というワードに痺れる

 

 

あらすじ

 

刑事の茶屋は、巷を騒がせている連続爆破事件を追う中で、犯人のアジトを突き止めていた。慎重に準備を重ねて突入したものの、あと一歩のところで犯人を取り逃してしまう。代わりに、共犯者と目される男が逮捕された。鈴木一郎と名乗るその男は、他の爆弾の設置場所を証言したものの、奇妙なことに感情が欠落していた。

 

彼の精神鑑定を依頼された医師・真梨子は、鈴木一郎に興味を持ち、彼の生い立ちに迫ろうとする。心を持たない男の心を探る中で、ある事実に行き着く。

一方、逃げ出した連続爆弾魔によって病院が占拠され、次々と爆破が起こってしまう。爆弾魔は誰なのか?そして鈴木の本性とは?

 

 

 

感想など

 

第46回の江戸川乱歩賞を受賞した作品です。2013年には生田斗真さん主演で、映画化もされたようです。私が読んだ文庫の帯にも映画の宣伝が載っていました。



今作は、感情を持たないが学習によって感情“らしさ”を獲得した男の話です。それだけを聞くと何のことやらと言った感じですよね。

いわゆる「感情表出障害」という脳の障害を生まれつき持ち、感情が欠落している男の話を軸に、爆弾魔による爆破事件が絡み合いながら物語が進行していくと言った内容です。

ところで普段私たちが無意識に出している“感情”とは、どこからくるのでしょうか?

脳から?心から?それとも身体から出てくるものでしょうか。


私達人間は、感情がなくても生きていけるのでしょうか。本作では、「感情が無い=基本的な欲求が無い」と書かれています。興味関心もなければ、生への欲求も欠落しているということです。そんな人間が生きていくと言うことはどういうことなのでしょう?一種の思考実験的な側面がある内容です。

 


我々が当たり前に感じている心や感情。

 

それは自分自身を形作る源といっても良いでしょう。そんな自分自身の存在を保つ源が無い状態とは、どんな状況なのでしょう。非常に興味をそそられました。



本作は脳科学、精神科学、心理学など様々なアプローチで人間の神秘について迫っていく内容なので、大変勉強にもなりました。

中でも印象に残っているのは、主人公の1人である医師の真梨子が親友の医師とやりとりする内容です。

 

「人間にとって感情というのはなんなのか」という問いに対して、物質の原子をまとめている力と同じように、自分という「自我」を一つにまとめている力が「感情」だと答えています。感情表出障害の人たちは、感情の代わりに約束やルールと言った規則を守ることが自我をまとめておく方法なので、ルールから逸脱してしまうと自分を見失ってしまう恐怖に駆られると書かれています。

今回は感情とは?という観点から感想を書きましたが、爆弾魔に迫っていくというエンタメ小説としても大変面白い内容です。


最後は少し尻切れトンボな感じがしたのですが、続編があるようですね。

同じく講談社文庫から「指し手の顔 脳男II」が上下巻で刊行されています。

 

印象に残った言葉など

 

「脳神経医学は死と戦うための医学、精神医学は生と戦うための医学、ですわ」

痛みを手放さないこと。分散させず一本の糸のように撚り合わせること。いまから思えば、痛みを手放さないことは、自己を規定している唯一のしるしを手放さないということに等しかったことがわかる。痛みを手放してしまえば自己を見失ってしまうことになる、という本能的な恐れ。

「人間はいろいろな経験をし、さまざまなことを学んでいるつもりになっているが、実は必要という文脈で取捨選択をしているだけだということだ」

 

 

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

また素敵な本に出逢えますように。読書シーズンの秋が近づいて来ていますね。