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住居が結ぶ不思議な縁【銀河不動産の超越】森博嗣

暑さ全開な毎日ですが、台風も迫ってきていますね。こんにちは。猫雪晴です。

今回紹介するのは、森博嗣さんの小説「銀河不動産の超越」です。シリーズものの印象が強い森さんですが、今作は単発ものです。単発ものやエッセイも多数書かれていて、面白い作品ばかりですが、他の作品紹介はまたの機会に。

 

こんな人に読んでほしい

 

森博嗣さんの小説未読だが気になる
・不思議な出会いの物語が好きな方
・引っ越しを考えている方

 

 

あらすじ

 

気力も体力も足りていない主人公・高橋は、大学を卒業後「銀河不動産」という小さな不動産屋に勤めることになる。しかし、あそこだけはやめておけと周りから言われる店だった。省エネ生活をモットーに生きる高橋の前途多難の社会人生活が始まる。

銀河不動産を訪れるお客は、毎回難題を持ってくる人たちばかり。一癖も二癖もある。でも何とか要望に応えようと奮闘する主人公は、ある事をきっかけに広大な敷地をもつ家に住むことになる。そこは公民館ほどもある大きさで、高橋が一人で住むには余りにも大きすぎる家だった。

 

その広大な家に住むことになってから、高橋の生活は徐々に変化していく。彼一人だった住人は、いつしか一人また一人と増えていく。不動産屋を通して新たな“縁”を結び、賑やかになっていく高橋の生活。いつしか彼の人生も大きく変化していく事になる…

 


感想など

 

何かをやろうとする気力が無くて、周りについつい流されてしまう主人公。野心がなく、無難に平和に毎日が終われば良いなと思っているところには、私も非常に共感するところがあります(笑)

 

しかしその来るもの拒まずな性質が、人との出会いを生み、さらに新たな出会いという縁を作っていきます。そしてその先に幸運を手繰り寄せていきます。案外肩の力を抜いて、ニュートラルに生きている人の元にこそ、幸運はやってくるのかもしれません。社会に出たら、目標をもって邁進していかなければならない…そんな強迫観念に対してちょっと待ったら?と言ってくれるような気がします。

冒頭にも書きましたが、今作は単発ものです。短編形式?で、一話ごとに新たなお客さんがやってくるというパターンで物語が進行していきます。非常に読みやすくサクサク進みますが、主人公が結んだ縁が実は繋がっていて、心がほっこりするラストを迎えます。

設定などに現実味はあまりないのですが、どこか妙にリアリティがあるのが不思議です。そして森さんの小説といえば、登場人物たちのやり取りの楽しさが魅力です。何気ないセリフの中に、心に刺さるものがたくさんあります。それぞれが自分の中に哲学というか、こだわりを持って生きている人たちばかりだからかもしれません。

 

そんな人物たちを描き出せる森さんの技量に脱帽です。シリーズものでないので、とっかかりやすいと思います。森博嗣さん未読の方は是非。

 


印象に残った言葉など

 

なるほど、場所というものは、個人が所有しているうちはただのスペースだが、大勢の人間の介入によって活用され、社会の基盤になりうるのだな、と理解したのである。

普段の生活においても、他人とは、必ず最初は知らない人だ。その状況から自分に押し掛けてくるものだ。一方、知っている人間であっても、どこまで知っているのか、と考えれば、なにも知らないに等しい。名前を知っているだけ、その履歴の一部を知っているだけ、知ってからの時間が経っているだけ。

「人の能力や人生や人柄って、取り出して自分のものにはできませんから」

「幸運を掴むのは、その人が持って生まれた能力によるものです。言い換えるならば、幸運といったものは、この世にはない。あるとすれば、幸せを築く能力、それを持っていた、幸せを築こうという努力、それをしたというだけのことです。」

 


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
また素敵な本と出逢えますように。