2つの時代を生きる衝撃作【暗幕のゲルニカ】原田マハ
物凄い豪雨に加えて激しい寒暖差と、コロナだけでなく気象状況も不安定な日々が続きますね…こんばんは。猫雪晴です。
今回紹介するのは、原田マハさんのアートサスペンス、「暗幕のゲルニカ」です。現代以上に激動の時代を生きた芸術家・ピカソの衝撃作「ゲルニカ」を巡る作品です。素晴らしい作品ほど、感想を書くのが難しいですが、精一杯書いていこうと思います。
こんな人に読んで欲しい
・芸術家パブロ・ピカソの生涯に興味がある
・アート作品を巡るサスペンスを読みたい
・「ゲルニカ」誕生の秘密を知りたい
あらすじ
1937年、パリでは天才芸術家・ピカソがその溢れる才能をほとばしらせていた。そしてその傍らには、恋人である写真家のドラ・マールがいた。
ある日、ピカソの元にゲルニカが空爆されたとの知らせが届いた。それはピカソの故国であるスペインで内戦が始まって以来、もっとも悲惨な出来事であった。
戦争への怒り、悲しみ、憤り…様々な想いを込めて、ピカソは後世に残る衝撃作「ゲルニカ」を生み出す。
一方舞台は2003年に移る。美術館MoMAのキュレーター・八神瑤子(やがみようこ)はピカソの企画展を成功させるために奔走していた。
2001年に起きた9.11同時多発テロを受けて、アメリカはイラクへの武力行使に踏み出そうとしていた。その発表会見が国連本部で行われた。しかし演台に立つ米国国務長官の背後にあるはずの「ゲルニカ」のタペストリーが消えていた…
感想など
今作はピカソが生きた時代(1937年~1945年)と瑤子の生きる現代(2001~2003年)、2つの時代を跨いで物語が進行します。時代を行ったり来たりしながら進みますが、非常に分かりやすく描かれていますので、混乱することはあまりないと思います。
かなりの部分が史実に基づいているため、どこまでが創作で、どこまでが真実なのか分からないくらいのリアリティです。参考文献もたくさんありますし、キュレーターである原田さんならではの作品と言えるでしょう。(下調べに苦労されたことでしょう…)
20世紀の話は、ピカソの創作過程を一番近くで見届けたドーラの目を通して、ピカソが「ゲルニカ」に託した想いに迫る内容です。天才芸術家・ピカソの知られざる苦悩と芸術への熱量がひしひしと伝わってきます。またピカソの支援者で最大の理解者でもあるパルド・イグナシオの存在も欠かせません(この人物はかなりのキーパーソンです)。
そして2000年代では、「ゲルニカ」に魅せられ、ピカソに人生を捧げた瑤子に焦点が当たります。世界に大きな影響を与え、良くも悪くも衝撃を与えた「ゲルニカ」に関わる瑤子は、ある陰謀に巻き込まれてしまいます。「ゲルニカ」を追い求め奮闘するストーリーは、手に汗握る展開でした。
ピカソと2人の女性、2つの時代、2つのゲルニカ。
緻密に組み立てられたストーリーと、燃え上がる様な芸術のエネルギー、そして「ゲルニカ」を巡る大勢の人間達の想いが溢れる大作です。創作的な部分はあるものの、ピカソのひととなりやピカソを支えた人物たちの様子を知ることが出来て、大変興味深い内容でした。また、ミステリーとしても素晴らしい内容です。
熱量に溢れた人たちの熱い物語を是非。
印象に残った言葉など
一度否定するところから始めるのが、彼の流儀なのだから。
「正当な暴走」などない。すべての暴走は不当なのだ。
彼は単なる負の記録としてあの一作を描いたわけではない。あの絵は、画家のーーつまり僕たち人類の抵抗なのです。戦争をやめない一方で、戦争に苦しみ続けるのもまた人類なのです。苦しみから逃れるためには、戦争をやめるほかはないのです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
また素敵な本と出逢えますように。