猫雪晴の本箱

つれづれなるままに本の感想を紹介

古代文明と闇ビジネスとの邂逅【テスカトリポカ】佐藤究

むせかえるような暑い日が続きますね。少し外に出るだけで、汗だくになってしまいます。こんばんは。猫雪晴です。今日紹介するのは第165回直木賞を受賞した話題作・佐藤究さんの「テスカトリポカ」です

実は直木賞を受賞する前の4月頃に購入し、少しずつ読み進めていたのですが、その重厚なストーリーと圧倒的なボリュームも相まって、なかなか苦戦していました。もちろん苦戦していたのはつまらないからでは無く、私の理解力と読書力が追いついていなかったからです。苦労しながらも、この度無事に読み終わったので、感想を書こうと思います。

 

こんな人に読んで欲しい

古代文明(アステカ)や古代の神々の話に興味がある

・佐藤究さんの小説を読んだことない方

・とにかく圧倒的な読書体験を味わいたい

 

あらすじ

 

メキシコの麻薬密売人としてトップに君臨していたバルミロは、敵対するカルテルからの襲撃を受けて逃亡生活を余儀なくされる。長い逃亡生活の中、バルミロは潜伏先のジャカルタである日本人臓器ブローカーと出会う。

 

一流の麻薬密売人と臓器ブローカーが出会うとき、日本で新たな闇の臓器提供ビジネスが生まれる。彼らの仲間は“家族(ファミリア)”と呼ばれ、皆通称で呼び合いあながら活動を行う。

川崎で生まれ、不幸にも少年院に入ることになってしまった少年・コシモ。彼はひょんな事からバルミロに認められて、ファミリアの一員となる。彼らの壮大な犯罪行為に巻き込まれていることとも知らずに…

 

感想など

 

かなり壮大な話なので、どこから感想を書いて良いのやら…といった感じですが、細部の作り込みがすごい作品です。麻薬の密売や臓器密売、そのルートや縄張り、取引の内容、ナイフや武器の作り方に至るまで、上辺だけで書いていないことが一読して分かります。巻末の参考文献の多さと言ったら、論文並みです。また数多く登場する用語にはスペイン語が使われているのですが、それも世界観を作り上げるのに一役買っています。

 

バルミロのファミリーはコードネームのような名前が与えられているのですが、慣れないうちは誰が誰だっけ?となるかも知れません。しかし慣れてしまえば、物語に引き込まれる要素として非常に効果を発揮します。

 

物語の根底を流れるもう一つの要素として、古代アステカ文明の神々の話が登場します。バルミロは幼少期に、おばあさんから古代の神々の存在と儀式について聞かされながら育ちます。その話がバルミロの中に息づいていて、大人になってからも生きる指標となっています。

古代アステカの生贄の儀式を現代でも、闇ビジネスの中で再現しようとするバルミロ。これは神々に捧げる生贄の儀式の再現なのでしょうか。

 

テスカトリポカ(煙を吐く鏡)

 

…と呼ばれる最高神が物語に何度も登場します。果たしてテスカトリポカとは現代においていかなる存在なのか。その正体とは何なのか。このことも物語の大きなテーマとなっています。

 

 

古代から脈々と受け継がれ、現代に息づく神々の物語と心臓売買という闇のビジネスが複雑に絡み合った重層的な物語です。圧倒的な読書体験を是非。

 

印象に残った言葉など

 

「お前たちは顔ーー顔で世界を感じているだろう?まなざしは顔に宿っているからね。ところがその顔は、生きる意味を知らないのさ。お前たちのように子供だったり、父親のように遊び人だったりする者は、顔と心臓がばらばらだ。だから本当の顔も持ってはいない。」

 

バイオセンチメンタリティーというのは、臓器を移植された本人あるいはその家族が、提供者がどういう人格で、どういう生涯を送っていたのか、ふと想像してしまって感傷に入り浸るってことなんだ。特に心臓移植では、提供者の死と引き換えに命を譲ってもらったために、重度のセンチメンタルに陥りやすい。

 

人間性を理解するのは人間であり、人間である限りは、自分の家族に愛情を持っている。家族は戦いを支える力の源となるが、同時に最大の弱点になり得る。

 

 

最後まで読んで頂きありがとうございました。

また素敵な本に出逢えますように。