猫雪晴の本箱

つれづれなるままに本の感想を紹介

究極の恋愛犯罪小説【未必のマクベス】早瀬耕

いよいよ東京オリンピック2020が開催されましたね。しっかりと開会式を観たのは初めてかもしれません。こんばんは、猫雪晴です。

今回紹介するのは早瀬耕さんの長編小説「未必のマクベス」です。圧倒的な内容を前にして、私の拙い表現力では到底太刀打ち出来ないのですが、温かい目でお付き合いくださいね。

ちなみに、本作は早瀬さんの長編第2作なのですが、デビュー作から実に22年ぶりの作品であるという点も注目ポイントです。 

 

 

こんな人に読んでほしい

・緻密な構成の作品が読みたい

・国を跨いだ小説が好き

・初恋の思い出が忘れられない人

 

あらすじ

 

IT企業に勤める主人公・中井と同僚の伴はバンコクでの商談を成功させ、帰国途中でマカオに立ち寄る。カジノで偶然大当たりをするとともに、娼婦からある予言的な言葉を投げかけられる。

 

ー「あなたは王として、旅を続けなくてはならない」ー

 

それはシェイクスピアマクベスを彷彿とさせる内容だった。ほどなくして、中井と伴は香港にある子会社へ異動を命じられるが、それは大いなる陰謀の始まりだった。ふとしたきっかけで初恋の相手のことを思い出した中井は、陰謀の中心に初恋相手が関わっていることを知る。裏切者は誰なのか?黒幕は?

 

大きなうねりに飲まれながらもがき続ける中井。やがて大きな決断を迫られる…

 

 

感想など


本書はタイトルにもあるように、シェイクスピアマクベスの物語が基盤になっています。事あるごとにマクベスの内容が登場し、ストーリー全体を通じての大きなテーマになっています。正直マクベスを読んだ事がなかったのですが、内容については何度も繰り返し触れてくれるので、ご安心を。

 

予言にあった、マクベスの内容通りになることを受け入れるのか、それとも拒むのか。主人公は悩み続けます。

⁡文庫版で600ページ越えの圧倒的なボリュームと、国を跨いだストーリーが展開します。初恋をした過去と現実を行き来し、陰謀と策略が渦巻く重厚な物語です。ストーリー展開はもちろんのこと、それを支える魅力がいくつもあります。


①まずは設定の作り込みが緻密だということです。例えばたくさんのホテルやバーが登場するのですが、それぞれの内装やスタッフの雰囲気の描写が細かく描かれています。知識が乏しいのですが、実際にある場所がモデルなのでしょうか?とにかく実在するかのような描写です。

②次に犯罪行為表現のリアリティの高さです。主人公が成り行きで行う事になる、パスポートの偽造や他人へのなりすまし、ブローカーとの交渉などの犯罪行為の表現が非常にリアリティがあります。もちろん実際のところは分からないのですが、限りなく“それらしい”と感じられます。

ディテールを突き詰めて描いているからこそ、読み手はあっという間に物語に引き込まれていきますし、先が気になってしまいます。


③解説にも書かれていましたが、この作品は犯罪小説であると同時に恋愛小説です。究極の初恋小説と言えるでしょう。

中井は次第に犯罪行為に手を染めていくのですが、それは決して自分のためだけではないのです。恋人のため、初恋の人を守りたいがため仕方なく行うのです。

 

会いたいけれど会えない初恋相手を思いながら、「君は安全な場所に居てほしい」と繰り返し願い続ける主人公の心情に、グッときました。

 

印象に残った言葉など

 

 

いまが一番幸せな時間だなんて、考えてみようともしないんだ」

「ビジネスは、どれもトレードです。トレードをした時点では、お互いの利益が等価であることに納得しているはずです」(中略)「けれども、後から考え直して、それが等価ではなかったときに、人は感情的になります。得るものが少なければ、当然かもしれませんが、多すぎても、結果は同じです」

「金で口を封じる奴は、それ以上の金を払えば、口を開くんだよ。だから、本気で口を封じたい奴に、口止め料なんて払わない」

たいていのことは後戻りや挽回ができる。何かのミスで誤解が生まれても、気長にそれを解く機会をもつことができるし、忘れることもできる。けれども、人が人を殺すことだけは、後戻りができない。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

また素敵な本と出逢えますように。